バニラ社会科見学とウミガメ放流体験 …メキシコの田舎旅

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Days 1
1日目

スポット1

パパントラ市内中心部

メキシコ

都市ベラクルス州パパントラ

コロナ禍。10月某日。メキシコの旅行会社には「持続化給付金」も「GoToナンチャラ」も無い。ただあるのは、来年度下期まで惨憺たる日々が続くであろうという悲観的且つ現実的な予測だ。日本からの観光客誘致が専門の自分は見通しが立たないだけでなく、社内でも肩身の狭い立場に甘んじざるを得ない。

そんな私は甘えついでに旅に出た。有給と週末を合わせた4泊5日の陸路旅行。メキシコシティから北東へ向かい。ベラクルス州とプエブラ州の北部を目指す。方角的にポサ・リカや世界遺産エル・タヒン遺跡の先のほうである。「雷の都」を意味する古代都市エル・タヒンはコロナ禍で閉鎖されているが、過去に数回行っているのでパス。今回はその先にあるプエブロ・マヒコであるパパントラが最初の目的地だ。

ちなみに「プエブロ・マヒコ」とはメキシコ政府観光省が定める「魅惑的な市町村」という観光促進事業で、現在132市町村が登録されているが、旅行屋の私ですら現時点で80しか行ったことがないのだが、132のうち「利権がらみ」が見て取れる町も少なくない。本当に観光客にお薦め出来るのは半数ぐらいのものであろう・・・

テオティワカンのピラミッドを左手にスルーし、メキシコ州からイダルゴ州に入る辺りは、名物のバルバコア屋が軒を連ねる。迷わず朝食に立ち寄り、熱々のコンソメとバルバコアのケサディージャ(羊肉料理)など食せば、旅の始まりのテンションが上がるというもの。店名よりもプルケ、バルバコア、エスカモレといった名物料理を横断幕でアピールする店が多い。たまたま選んだ店には美しいブリティッシュ・ショートヘア系の仔猫が飼われていて、ネコ馬鹿の私のテンションは更に一段上がったものである。

パパントラはナウァトル語で「カラスの棲みか」の意味。正式名はパパントラ・デ・オラルテ。オラルテはスペインからの独立戦争で奮闘したトトナカ族系の将軍セラフィン・オラルテの姓である。ルートである有料道路132D号線と国道18D号線は、事故や検問もなく非常にスムースだったこともあり、パパントラへは正午頃に到着。ホテルに車と荷物を預け、どちらかと言えば鴉より野良犬のほうが多い気のする「カラスの棲みか」の散策へ出かける。

坂道が多いパパントラの町。日差しも強く多湿な感じで、パーカーを脱いでTシャツ1枚で歩くも汗がじわっと来る。何年か前に来た時は、カンクンなどで見かける立体のカラフルな地名を広場などに設置するサイン(レトラス・モヌメンタレスというらしい)は流行していなかった。パパントラは観光地なので大袈裟とは思わないが、今回の旅行中パパントラ、カシータス、テコルトラ、ナウトラ、ヒカルテペック、サン・ラファエル、トラトラウキテペックと7つのレトラス・モヌメンタレスを視認。ちなみにメキシコシティではCDMXの4文字が至るところに設置されている。今はメキシコの何処でも見かけることが出来そうな勢いだ。

ベラクルス州はコロナ感染症警戒レベルが橙色(1月11日現在は黄色)であり、パパントラのサインがある中央広場であるテジェス公園は立ち入れないようテープが張り巡らされており、かつてTV番組で宮川大輔が挑戦した「鳥人祭り」、教区教会前にあるメキシコで最も高い鉄柱のボラドーレスの儀式も行われていなかった。観光客が殆どいない現状では仕方がないことだろう。

また、以前は多く見かけたバニラや民芸品を売る人の姿も殆ど見かけることがなかったが、町の中心部は活気ある喧騒と雑踏。市場では大勢が食事をして、各々の商売に励んでいる。仲間達は鮮魚店で安価な「からすみ」を味見したり、私は滅多に見ることがない地元で一般的というキャンバス素材のグアヤベラ(キューバシャツ)を購入。翌日の朝食用のサカウィル(メキシコ版クスクス)屋などを下見して過ごした後、車で20分ほど町の南に位置するバニラ園に移動した。

スポット2

エコ・パーク・シャナット

メキシコ

都市ベラクルス州パパントラ近郊

パパントラへ来た目的はエコ・パーク・シャナット(Parque Ecológico Xanath)を訪ねて、バニラ栽培がどんなものが知ることだ。メヒコに15あるという原産地呼称制度(ハリスコ州、グアナファト州、ミチョアカン州、ナヤリ州、タマウリパス州の原料でないとテキーラと名乗ってはいけない=フランスのシャンパンのような規制)の1つが「パパントラのバニラ」(Vanilla de Papantla)であり、ベラクルス州とプエブラ州の39の行政区で生産されたものだけが、「パパントラのバニラ」を名乗ることが許可されると言う。

アイスクリームやスイーツの甘い香料や芳香剤の香りとして、多くの人が「バニラ」を連想するほど周知されているが、19世紀にフランス植民地であったマダガスカル島の奴隷が人工授粉の方法を発見するまで、バニラは古代文明の神官が口にするカカオ飲料の香りに使用されたトトナカ文化(この地域)の専売特許的な存在で、17世紀以降スペイン人による独占状態でヨーロッパへ広まった…という歴史は、「バニラ」が身近過ぎる故に人の関心を引かないのだろう。

約束より1時間以上も早く到着した気の早過ぎる日本人を快く受け入れてくれたのは、2ヘクタールのバニラ山林の所有者且つ案内人でもあるホセ・ルイス・エルナンデス氏。この地に移住して38年。太陽光発電で自給自足に近い生活を送っている変った人だ。早速小さな苗棚の前でバニラ栽培の講義が始まった。

まず、バニラはランの一種であること。ラン科バニラ属の蔓性植物。ランにありがちな着生植物ではなく、登攀性があるツルのような種類とのこと。苗棚には深緑の厚めの葉が蔓状に絡み、幅1センチ、長さ20センチぐらいの種子鞘が数本垂れ下がっている。これが発酵と乾燥を繰り返してバニラ・ビーンズとなる。

苗棚から家屋へ移動。母屋とは別に大きな切株を使用したテーブルと椅子が置かれたオープン・エアの土間に通され、ホセ・ルイス氏の着替えを待つ。昔ながらの竈や無造作に置かれたバナナの大房などを眺めていると、彼は白いトトナカの伝統衣装とワラッチェ(革サンダル)で登場。古い文献やセピア色の写真など見せながら更に講義は続く。

バニラは虫媒花(昆虫を媒介にして受粉する)であり、この地に生息するハリナシバチのみを媒介として受粉する上、バニラは8時間程度しか開花しない為、自然に受粉する確率は全体の1%とのこと。実物の蜂はお馴染みの黄色+黒の縞柄ではなく、光沢ある緑1色で、尻に針はなく、口吻部が異様に長い特徴的な姿。この小さな蜂がいないとバニラは受粉出来ず、あの香料は生まれなかったいうのが自然界の仕組みとバニラの歴史の原点。従って19世紀に人口受粉の方法が発見される迄、ハリナシバチがいない他地域ではバニラを生産する術がなかったのだ。

スポット3

エコ・パーク・シャナット

メキシコ

都市ベラクルス州パパントラ近郊

現在、バニラ生産国はマダガスカルとインドネシアが2トップであり、大きく差が開いて3位がメキシコ、パプア・ニューギニアと中国がほぼ同じぐらいの生産量で続く。また、2017、18年に最大生産地であるマダガスカルがサイクロン被害を受けたことで、国際的なバニラ相場は銀より高価(1キロ=500ドル以上。サフランに次ぐ香辛料No.2の価値)なこともあり、メキシコのバニラは総生産量の4分の3が輸出用。国内流通しているものは非常に少ないのだという。

裏庭で養蜂(ハリナシバチ)の説明を受け、ようやくバニラの山へ。山は多種多様な樹木が茂っていて、バニラが自生している場合、それらの樹木に巻き付いてかなりの高さまで繁殖している。時折ホセ・ルイス氏が指差す先に細長い種子鞘が発見出来るという具合だ。ここは生産性より解説に特化した場所であり、完全オーガニックである為に、こうした非効率的な自然栽培なのだろう。

清涼な空気、眩しい太陽、深い森林、ホセ・ルイス氏に叱られながらも付き纏ってくる飼犬、警戒して近づいて来ない黒猫…非日常な空間が、今まで何年も関心すら持たず、知らないままでも困らなかったけれど、意外と知的好奇心を刺激する静かで深い山の恵みを実感する散策であり、大人の社会科見学となった。

最後にバニラを漬け込んだ焼酎(アグアルディエンテ)を試飲。ベラクルス名物トリートなど振舞われ、ほろ酔い状態で新緑の大自然からパパントラの町へ戻った。

Days 2
2日目

スポット1

ホテル・ノライ(コスタ・エスメラルダ)

メキシコ

都市ベラクルス州、テコルトラ近郊

今後増加するであろう「体験型ツアー」の一環として、メキシコシティから最も近いビーチと言われるテコルトラ(陸路片道330km。ちなみにアカプルコは380km)でのウミガメ放流体験のレポートをしたい。

テコルトラはナウァトル語で「ふくろうの土地」という意味だが、フクロウでなくウミガメの話となる。パパントラからメキシコ湾岸コスタ・エスメラルダへ移動。広い敷地に全26室の4☆ホテルのマスタースイート(2ベッド+バス・トイレ付の寝室×2。リビング・ダイニング・キッチン+オーシャン・フロントのテラス付)に宿泊。大人4人ゆったり過ごせる部屋が1泊2000ペソ(約1万円)はコロナ禍ならではの格安料金。庭や建物の陰に3匹の猫がウロチョロしていて個人的に好感度が急上昇。

スポット2

ホテル・ノライ(コスタ・エスメラルダ)

メキシコ

都市ベラクルス州、テコルトラ近郊

海岸線の道路沿いにはホテルやレストランの他、ペスカデリア(鮮魚店)が点在しており、仲間たちは新鮮な海の幸を購入。早い時間からホテルのテラスで呑み始める。友人が持参したアイラ島のスコッチ「Bowmore12」を生牡蠣に垂らす。磯の香りが口中に広がってウィスキーと牡蠣の相乗効果で美味なんだとか…私はアルコールの強烈な刺激で牡蠣を食べた気になれなかったが、これも経験や慣れで美味しく感じるのだろう。

テラスから見えるホテルの庭の向こうには、ハリケーンの影響でやや高く真っ白な波濤が浅瀬の砂を巻いて、彼方にはメキシコ湾の緑がかった水平線が続いている。特に何をするでもなく、海風に心地よく吹かれて、ゆっくり飲み食いしているうちに日が暮れ、私は最初に寝落ちしたようだった。仲間達が何時に寝たのか知らない。「これぞ休暇!!」である。

スポット3

コスタ・エスメラルダ

メキシコ

都市ベラクルス州、テコルトラ近郊

翌朝。前日の早寝のおかげで朝3時半に起床。白く強い月光を浴びながら、珈琲片手に朝イチの一服。日曜の未明、こんな時間に起きているのは、産卵に来たウミガメか私ぐらいのものであろう。蛇足ながらこれは私の勝手な先入観に過ぎず、昼間産卵するウミカメも普通にいますので、ご勘弁を。

Days 3
3日目

スポット1

カンパメント・トルトゥゲーロ・ビダ・ミレナリア

メキシコ

都市ベラクルス州、テコルトラ

今回カンパメント・トルトゥゲーロ・ビダ・ミレナリアという保護団体が主催する子ガメの放流に参加した。問合せや予約はメールで事前に行うことが出来るが、実際にコンファームされるのは1週間前を切ってからとなる。

子ガメが生まれるかどうか人工的に孵化をさせている訳ではなく、団体スタッフにより親ガメが産卵した場所の保護と観察が行われ、タイミング的に放流が出来る状況かどうかの判断がされるのが旅行の数日前になるという流れだ。

産卵場所の保護には餅焼き網を大型にしたような正方形の金属網で、カメが産卵した穴をカバーして外敵(野犬やコヨーテなど)に卵が捕食されるのを防ぎ、孵化までの経過観察を行うという自然に最小限の手しか加えない方法。孵化を人工的にサポートするような保護をしているのはタマウリパス州だけで、オアハカやキンタナ・ローなどウミガメが産卵に来る他州も、保護活動の地道さはここと大差ないようである。

仲間達が起き出して来て、夜明けの海岸を散歩して、友人の作った朝食用のカニメシを平らげ、テコルトラのほぼ中心にある保護団体の施設「カンパメント・トルトゥゲーロ」に向かった。テコルトラの町の入口ではコロナ対策用の検問があり、車内でもマスク着用が励行しているか視認され、背中にタンクを背負った市職員から問答無用で車内に消毒液の噴霧を浴びせられた。少し乱暴な対応に見えたが、日曜の朝からの仕事している彼に免じて文句は言うまい。

現場に到着すると意外にも50人ほどが並んでいた。野外とは言えクラスター化しうる密集具合。
スタッフの指示で大人しく列を作っているのは家族連れが多かった。こんなにもウミガメに関心のある人がいることに少し驚く。朝7時から9時までの放流時間なので、30分に1度行うにしろ、1日に5回が最大であり、仮に1回につき50匹の子ガメを放流したら、1日で250匹程だろうか・・・

前日のバニラに続き、早めに到着してしまった日本人は約束より30分前倒しで1つ早い組に入れて貰うことが出来た。最初に15分程のセミナーを受講。前方でスタッフが写真パネルや模型などを使って、ウミガメの生態や保護の現状などを話してくれるのを後方に着席して拝聴した。この年齢まで生きてきても、世の中には知らないままでいたことは余りに多い。

スポット2

カンパメント・トルトゥゲーロ・ビダ・ミレナリア

メキシコ

都市ベラクルス州、テコルトラ

テコルトラでは年間約7万匹が生まれるらしいが、一般人が放流体験出来るのは土・日だけ。そのタイミングで子ガメが生まれていればの話である。ウミガメは種類にもよるが、1度に70-150個の卵を産むので、450-500頭ほどがテコルトラ近郊で産卵していると思われる。ウミガメは鮭と同じ習性で、自分の生まれた場所に産卵に戻ってくるそうだ。

今回放流されるウミガメは当地でトルトゥーガ・ロラ(Tortuga Lora)、和名ケンプヒメウミガメというウミガメの中で最小種。とは言え、成長すれば甲長75センチ、体重50キロを超える。ちなみにカメの数え方は小さいのは1匹、2匹。大型のウミガメは1頭、2頭と数えるらしい。

セミナーの後にショップでTシャツやキャップなどのグッズを購入すると、放流する小ガメと交換出来るカードを渡されるシステムになっているが、ショップが小さい為に参加者が多いと暫く待ち時間が出てしまう。営利目的ではない保護団体の運営に不満はないが、生産性・効率化と併せた資金面の拡充策を提案をしたくてヤキモキするのは、営利目的100%の旅行屋の性と言う他ない。

スポット3

カンパメント・トルトゥゲーロ・ビダ・ミレナリア

メキシコ

都市ベラクルス州、テコルトラ

さて、浜辺に出て小さな四角い籠の中で動き回る小ガメを渡される。ここでは素手でカメに触れることはさせていないらしい。生まれたばかりというのに海に向かって地団太を踏んでるのか、波の音を聞き付けウォーミングアップを始めたのか、これから始まる楽しいことが待ちきれない幼児のような元気さを見せる。

セミナーでは生後48時間以内に海中の一定の深さまで到達出来ない子ガメ達、全体の約半数は死んでしまうと言われた。彼らを持っているのは楽しい旅ではなく、生後すぐに始まる生存競争であり、生き抜く為の試練の旅路だ。

ウミガメに対し特別な愛着など微塵も持ち合わせていない私だったが、私の持つ青い籠の中で、子ガメのチビは忙しなく落ち着かない様子で海に向かって行きたそうにしている。居てもたっても居られないかの如く、籠の中でクルクルと回ったりしている姿を見ていて、その本能的な動きに感情が揺さぶられたことは否定出来ない。

横一列に並んだ我々にスタッフからの指示が出て、子ガメが一斉に放たれる。全身を使って一心不乱に波打ち際へ向かっていく。海に到達することは鳥に捕食される危機を回避することでもあるのだ。チビガメの健気で果敢な挑戦に「絶対死ぬなよ」「頑張って生きていくんだぞ」と、波間に姿を消してゆく子ガメ達にメチャクチャ感情移入しているおっさんがいた。友人も私同様に意外な感覚に陥っているようだった。

それから数日間は何をするにつけ、チビガメの消息が心配でならなかったのは誇張でない。今もメキシコ湾の何処かを逞しく、悠々と泳いでいてくれることを念願して止まない。

保護団体の方々、今回の体験をセットしてくれたM嬢、おっさんをいとも簡単に魅了してしまう野生動物の営みに感謝。

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